怪獣図書館【フィクション収蔵庫】

 未確認動物を扱った創作文学はけっこう多い。広い意味では、すべての怪獣文学は、未確認動物文学である、とも言える。未知の怪獣の出現とその脅威を描いた『ゴジラ』(香山滋、1954)や、『空の大怪獣ラドン』(黒沼健、1956)などもそうだ。特に黒沼健の『~ラドン』は、前半部の謎の生物(=実は古代昆虫メガヌロン)による連続殺人事件の描写など、「正体不明のモンスターの恐怖」を描いている点で、日本の未確認動物小説の中でも出色の出来である。
 しかし、当「怪獣図書館」では、そのような小説(映画)オリジナル怪獣の作品を、ひとまず措き、すでに「未確認動物」として世間的に認知されている存在ーーネッシー、雪男など、いわば既存(?)の怪獣ーーをテーマに創作された作品を中心に収蔵していく方針である。現実に様々な目撃談が寄せられ、それだけですでに小説以上に奇妙な物語世界を形成している未確認動物たちを、作家たちはどのように料理し、我々好き者の読者に供してくれているのだろう……。
 *黒沼健は、「怪奇実話」という形で、様々な未確認動物(カナダの雪男や、マレーの有尾人等)の逸話を集めた作品を多く残しているが、本書架ではあくまで「創作されたストーリー」を持つ作品に限っているため、除外した。しかし、黒沼作品群については、今後あらためて、半ドキュメンタリー文学(?)としての、新たな位置づけをすることが必要だろう。

 *【リニューアルにともなう新方針】2013年3月
 フィクションとノンフィクションの境界を神出鬼没に行き来する怪獣の物語を、現実世界の未確認動物とまったくの創作とに二分割することの難しさを感じている。そのため、今後は未知の動物の出現をモチーフにした作品を、広く収蔵していくことにする。しかしその際、すでに映画やテレビで有名となった怪獣のノベライズ作品・パロディー作品等については今後別枠を設けることとして、ここではあくまで未確認動物的な怪獣(この言い回しにも多少問題が残るが)にこだわって整理していこうと思う。

フィクション(創作小説)【日本人作家】

・荒木源『探検隊の栄光』(小学館文庫、2015年9月13日)


・松原秀行作/梶山直美絵『パスワード UMA騒動 -風浜電子探偵団事件ノート(30)「中学生編」-』 (講談社青い鳥文庫、2015年8月15日)


村井さだゆき/小中千昭/中野貴雄/會川昇/井口昇/上原正三『日本怪獣侵略伝 ~ご当地怪獣異聞集~』(洋泉社、2015年4月13日)




東雅夫編『怪獣文藝の逆襲』(メディアファクトリー、2015年3月28日)




馬場卓也『バカと戦車で守ってみる!』(SuperLite文庫 [Kindle版]、2014年7月9日)




岸川真『赫獣』(河出書房、2014年5月22日)




東雅夫編『怪獣文藝』(メディアファクトリー、2013年3月11日)


 「特撮を愛し、文藝を愛する人々に捧げる、世紀の競作集!!」とある通り、怪獣をテーマにした豪華作家陣によるオール書き下ろしの一冊。怪獣文学をテーマにしたアンソロジーならば、かつて『幻想文学』誌39号の「大怪獣文学館」特集や、書物の王国17『怪獣』等があったが、すべて新作というのはきわめて珍しいのでは? このようなサイトを運営するボク自身にとっても、これ以上はないくらいにどストライクな企画だ。
 そして、この装丁を見よ! かつて怪獣少年だった懐かしいデザイン。秋田書店の「写真で見る世界シリーズ」の怪獣本におマージを捧げているのが一目瞭然。そして開田裕治先生による大迫力の表紙。ズッシリとしたハードカバーの重みを手に感じながら、外側からも眺めて存分に堪能したい。
 東雅夫氏の後書きに、実在した恐竜とフィクションの怪獣と虚実半ばするUMAとの関係は、怪談の構造(怪談実話と怪談小説、そして怪談実話系)と相似形をなしているとの指摘に、なるほどと膝を打つ。特にボクはその虚実半ばするUMAをめぐる言説を追いかけているわけだが、フィクションとノンフィクションが交錯するその「語り」の中に、大きな魅力を感じていたのだなあと、改めて気づかされた。
 とにかく、どこを切っても怪獣が詰まった一冊。いろんな部分で刺激されまくり。


・田中啓文『猿猴』(講談社文庫、2012年5月15日)


 参考文献に拙著を上げてくださっていたので、おそらくちょっとだけ、作中で中国〈野人〉に触れておられるのだろうと思って読み始めたのだが……驚愕! ネタバレは避けるが、これは日本初の「中国〈野人〉小説」かも。
 田中啓文氏は民俗学・オカルト・SF映画等各種サブカル要素を違和感なく混ぜ合わせ、繋げるのが上手。『UMAハンター馬子』シリーズ然り。サルの神話伝説・雪男系獣人UMAに興味がある向きなら、『猿猴』はお薦め。主人公達が湖北省神農架到着までに辿ったルートは、1998年、実際にボクが〈野人〉探検を決行した際の行程と全て一緒(笑)。
 この『猿猴』、小松左京がヒバゴン騒動と比婆山の神話に材を取った短編「黄色い泉」にオマージュを捧げているような部分が随所に見られる。黄泉ながら……じゃなくて、読みながら妙な既視感を感じた。
 それにしても田中氏、以前は獣人系UMAはお好きではないとおっしゃっていたような気もするが……。


・山本弘『MM9』(東京創元社、2011)


・山本弘『MM9』(東京創元社、2007)


COMING SOON!


・田中啓文『UMAハンター馬子 完全版(1)』『UMAハンター馬子 完全版(2)』(いずれもハヤカワ文庫、2005)


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・重松清『いとしのヒナゴン』(文藝春秋、2004)


 1970年代の広島での「ヒバゴン騒動」に材を取った、重松清の小説。架空の町「比奈町」を舞台に、30年ぶりに持ち上がった「ヒナゴン騒動」や、市町村合併問題をめぐって展開される様々な人間模様を、故郷に嫌々Uターンしてきた主人公の若い女性の視点から、軽快なタッチで描く。従来のUMAを扱った小説群とは一線を画し、あくまでメインは小さな町で暮らす、それぞれに「故郷を思う気持ち」を持つ人々だ。
UMA小説というと、とかくSFやファンタジーに流れ、浮世離れしたストーリーになりがちだが、本作は現代日本の地方都市が抱える切実な悩みをさりげなく組み込むなど、実に地に足のついた新しいタイプのUMA小説となっている。なにより、人物一人ひとりのキャラクター設定が見事だ。「老人」「中年」「青年」「こども」の各世代で生じる故郷観・ヒナゴン観のギャップや、同じ世代の中でも、これまでたどってきた道程や環境などによって生じる微妙な温度差などを、決して少なくはない登場人物たちにうまく振り分けながら、鮮やかに表現して見せている。

 核になる登場人物たちはみな町役場の職員なのだが、やはり故郷の田舎町の役場に多くの友人を持つボクは、とても他人事のお話ではなかった。住民の高齢化、商店街の空洞化、そして市町村合併問題などはもちろん、地元で地道に働く者と、田舎にUターンするかどうか葛藤する者の衝突など、個人的にいろいろ感情移入してしまった次第である。

 「どんな話なのかーと訊かれたら、ふるさとの話なんです、と答えたい」とは、本書、巻頭の一文だが、それはひとり主人公の故郷「比奈町」のみならず、ボクや、多くの地方出身者にとっての、故郷の物語なのだ。

 それにしても、ボクもあの“やんちゃな”市長のように、少年時代のキラキラした冒険ごっこの記憶をいつまでも胸にしまったまま、どんなドロドロとした事態に直面しても、豪快に笑い飛ばして人生を楽しめる中年になりたいものだと心から思った。

*さっぽろ映画祭2005で、映画版「ヒナゴン」を観賞する好機に恵まれたが、その時、舞台挨拶に立たれた監督の話によれば、この小説、まず「井川遥主演の映画の原作」という大前提のもと、執筆されたということらしい。重松氏、井川遥の大ファンらしい。で、題材にUMAを選んじゃうところ、なかなか素敵なセンスをお持ちである。


・薄井ゆうじ『イエティの伝言』(小学館、2003/小学館文庫、2005)


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・山本弘『神は沈黙せず』(角川書店、2003/角川文庫、2006)


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・源 愼『ツチノコ』(新風舎文庫、2003)


 主人公の親友・木田は幼い頃から、謎の蛇「ツチノコ」を追い求めていた……。彼にとってのツチノコとは? 日本を代表する未確認動物を表題に持つ本作だが、ツチノコそのものを扱っているわけではない。木田の抱える重大な秘密が、主要なテーマとなって読者を引っぱるわけだが……。もう一工夫ほしいところ。


・田中啓文『UMAハンター馬子 闇に光る目』(学研ウルフノベルズ、2003)



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・鳥飼 否宇『桃源郷の惨劇』(祥伝社文庫、2003)


 ヒマラヤの桃源郷を訪れた日本人TVスタッフが遭遇する殺人事件と、そこに見え隠れするイエティの影。本格推理。


・田中啓文『UMAハンター馬子(1) 湖の秘密』(学研M文庫、2002)


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・東雅夫編『怪獣文学大全』(河出文庫、1998)


・東雅夫『恐竜文学大全』(河出文庫、1998)


・景山民夫ハイランド幻想」(『ハイランド幻想』中公文庫、1997所収)


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・友成純一『ネッシー殺人事件』(講談社、1991)


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・嵯峨島昭『深海恐竜(ニューネッシー)殺人事件』(徳間文庫、1985)


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・赤川次郎『失われた少女』 双葉社、1984/角川ホラー文庫1998


 雪の別荘に一人暮らす作家・伊波のもとへ、記憶喪失の美少女が迷い込んできた。少女の訪れとともに起こる数々の異変。次々に殺人を犯す「雪男」は誰?

・小松左京『黄色い泉』(徳間文庫、1984)


 ご存知、広島県比婆郡のヒバゴン騒動と、『古事記』の比婆山伝説に材を取ったSFホラー。ヒバゴンという現代的なUMAを扱いながら、物語は悠久の時を超え、日本の古代神話のグロテスクな世界へとつながっていく。
 ヒバゴンにさらわれたとおぼしき妻を探して、山中の洞窟へ迷い込む主人公は、やがてイザナミを求めて黄泉を訪れるイザナギと同じ体験をすることに……。そこに展開される悪夢的な世界に、思わず息を呑む。
 女性をさらい、洞窟へ幽閉する獣人というモチーフは、普遍的なものだが、そこに誰もが知る日本神話のエピソードをリンクさせるアイディアは秀逸。


・田辺聖子『すべってころんで」(初出は1972年『朝日新聞』夕刊連載小説)


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・吉田健一「ロッホ・ネスの怪物』 初出は短編集『酒宴』垂水書房、1966


 原作者の吉田健一氏は、あの吉田茂元首相のご長男。未確認動物をテーマにした名著『未知の世界ー私の古生物誌』(図書出版社、1975)もある。
 現在、同作を読むことが出来るのは以下の通り。
『吉田健一集成6』新潮社、1994
「新編 酒に呑まれた頭』ちくま文庫、1995
 (旧版は番町書房、1975)
『書物の王国17 怪獣』国書刊行会、1998


・香山滋『獣人雪男』
『怪獣総進撃』(出版芸術社、1993)、『香山滋全集』第7巻(三一書房、1994)、『ゴジラ』(ちくま文庫、2004)に同作を収録)



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・香山滋「オラン・ペンデクの復讐」 初出「宝石」1947年4月
・同「オラン・ペンデク後日譚」初出「別冊宝石」1948年1月
・同「オラン・ペンデク射殺事件」 初出「宝石」1959年1月


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フィクション(創作作品)【海外作家邦訳】

未確認動物文学が盛んなのは、日本よりもむしろ欧米かもしれない。
しかし、そのほとんどは邦訳されてはいないし、今後も日本での出版は難しいだろう。
ここでは、現在までに邦訳された未確認動物作品を、できるかぎり収蔵しておこう。
そのほとんどが、話題になった映画のノベライズかその原作であるのは、いたしかたのないところか。
純然たる未確認動物小説マニアなんて、そうそういないでしょうからね。

・ボイド・モリソン『THE NESSIE ザ・ネッシー 湖底に眠る伝説の巨獣(タイラー・ロックの冒険4) 』上 ・下(竹書房文庫、2016年7月28日)


・ グラディス ミッチェル著/白須清美訳『タナスグ湖の怪物』(論創社、2008年7月)


・菱沼彬晁・飯塚容訳『高行健戯曲集』(晩成書房、2003)


 2000年に中国出身の作家としては初のノーベル文学賞を受賞した高行健が、1985年に発表した舞台劇脚本「野人」の邦訳を収録。物語の舞台は明記されてはいないものの、漢族の創世神話資料『黒暗伝』が登場するなど明らかに神農架であるとおもわれる(『黒暗伝』は20世紀に神農架で発見された)。
 謎の怪獣〈野人〉をめぐり、地元の村内外で巻き起こる様々な騒動や人間模様を描く。環境問題への問題提起などもあり、当時としては先進的な主張も見え隠れする。
 なお、高行健の後の作品『霊山』にも、神農架と〈野人〉への言及がある。


・ジョン・A・キール著/南山宏訳『プロフェシー』(ソニー・マガジンズ、2002)


 リチャード・ギア主演の映画『プロフェシー』公開に合わせて出版されたが、映画の原作というわけではない。アメリカでポピュラーなモスマン(蛾男)伝説を追うジャーナリストによる「ノンフィクション」。いろいろ考えた結果、フィクション部門に入れさせていただきました。


・ピエール・ペロー著/佐野晶訳『ジェヴォーダンの獣』(ソニー・マガジンズ、2002)


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・フィリップ・カー訳/東江一紀、後藤由季子訳『エサウ 封印された神の子』(徳間書店、1998/徳間文庫、2000)


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・ジョン・ダーントン著/嶋田洋一訳『ネアンデルタール』(ソニー・マガジンズ、1996/文庫2000)


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・ナイジェル・トランター著/杉本優訳『ネス湖のかいじゅう』(童心社フォア文庫、1996)


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・池上正治編訳『中国科学幻想小説事始』(イザラ書房、1990)


 雪男を描いたSF小説、童恩正『雪山魔笛』(1978)の邦訳を収録。


・ジョイス・トンプス著/野田昌宏訳『ハリーとヘンダスン一家』(角川文庫、1987)


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・フレッド・ホイル ジェフリィ・ホイル著/関口幸男訳『ネス湖の怪物』(角川文庫、1977)


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