中国にはまだ数百体の〈野人〉が生息? 2013.8.5
また新たな〈野人〉本が登場か
袁国映氏の著書を巡る討論会で
久々に中国から派手な〈野人〉関連のニュースが飛び込んできました。
「専門家は中国になお数百の野人が存在 最大の〈野人〉は崑崙山脈に身を隠している」(『新華網』2013年7月25日 来源『人民網』*中国語サイト
翌日には日本語サイトにも翻訳記事が出ておりましたので、こちらもご参照ください。
「中国に数百人規模の「野人」、最大の野人は崑崙山脈に生息か―中国メディア」(レコードチャイナ2013年7月26日)
新疆生態学会理事長かつ新疆環境保護科学研究員の袁国映氏が、最近上梓した自著『野人』に関する研究討論会の席上、現在までの資料から判断して、中国にはまだ200〜500体の〈野人〉が残存しており、その中でも新疆のアルタイ山・アルチン山・崑崙山などに最も多くの種類(7〜8種類)分布していると述べたとのこと。
袁氏は40年以上の調査活動の中で集めた資料から、「中国野人分布図」や「世界野人伝説分布図」などを作成。最も大型の〈野人〉はアルチン山と崑崙山に、最も小さい〈野人〉はウルムチ付近の山中にいるとのことです。
さらに、世界には今でも500〜1000体の〈野人〉がおり、中国では神農架(御馴染みですね)・チベット・アルチン山などに200〜500体の程度残っているというのが、氏の主張です。
各地に長年〈野人〉の同じような伝承が語り継がれていることこそが、実在の証拠であるとしています。また、絶滅寸前のトキや華南虎も最近では繁殖によって増えているという例を挙げ、暗に〈野人〉もまた増え始めてもおかしくないといった論法も用いているようですね。
「猿」に縁のある「袁」さんたち
それにしても、実に久しぶりに大きな〈野人〉ネタ。しかも、今回は白髪三千丈っぷりを遺憾なく発揮してくれています。
この袁国映氏については、恥ずかしながらあまり存じ上げませんでした。くだんの著書も未読なので、まずは取り寄せたいと思いますが、この方、どうやら〈水怪〉でも著書があるようですね。確かに、新疆ではカナス湖の水怪なども話題になっておりましたし、そまさにそのジャンルがご専門なのかもしれません。
〈野人〉を研究し始めて40年とありますが、本格的に神農架で〈野人〉騒動が起こったのが1974年のことですから、もし本当ならまさに最初期からこの問題を追い続けている筋金入りの「野人迷」と言えるでしょう。早く読んでみたい。
ちなみに、〈野人〉専門家として中国内外のメディア露出も多い中国科学員古脊椎動物・古人類研究所の教授も、奇しくも同じ「袁」姓の袁振新氏です。
さらにまた、神農架林区の〈野人〉調査員で、目撃者としてもよくテレビや書籍に登場する袁裕豪氏も「袁」姓。
このように、現代〈野人〉を巡る登場人物にはどういうワケか「袁」姓が多いんですよね。
ちなみに、「袁」は中国語で発音が「猿」と同じ。
ちょっとした因縁を感じずにはいられません。
何だ、駄洒落かと思うかもしれませんが、『封神演義』の白猿の化身は「袁洪」ですし、『呉越春秋』や『平妖伝』に出てくる白猿の化身も皆「袁公」と名乗りますし、「袁」は昔から容易にサル(猴ではなく猿)と結びつきやすい、由緒正しき(?)名前だったわけです。
まあ、〈野人〉はサルとは別物かもしれませんが、不思議な偶然もあったものです。
「野人迷」たちの狂想曲
その袁国映氏の著書『野人』がいかなる本かは分からないのですが、これまでの40年近い調査の成果とあっては期待せずにはおれません。これまでの先行研究が神農架周辺に特化したものが大多数でしたから、中国全体へ目を向けているというだけでも、資料的価値は大きいように思います。
彼の〈野人〉へのスタンス・アプローチ法など、実際に読んでみないことにはわかりませんけど。
近年は、1990年代から山中生活を送る、かの〈野人〉ハンター張金星氏の手記『野人魅惑』(崑崙出版社、2008)や、騒動初期からの〈野人〉探検家黎国華氏の『1976-2012我的野人生涯』(中国書店、2012)など、興味深い著作が次々に出てきております。
特に、黎国華氏の著書は、知識青年から文工団員を経て神農架の〈野人〉に没入した黎国華氏自身の、現在までの軌跡を赤裸々に描いているばかりでなく、〈野人〉研究にとりつかれた関係者たちの知られざる逸話も満載。特に科学分野で〈野人〉研究の第一人者であり、その独自のモンタージュ図像で1970年代以降の〈野人〉イメージを決定づけた華東師範大学の生物学者・劉民壮氏の寂しい最期が涙を誘います。程度の差はあれ、〈野人〉関係者の末路は総じて切ないものばかり。かくも多くの人々に「山の人生」を選ばせた〈野人〉とは……。
今世紀に入って〈野人〉探検家の自身の回想録や、第三者による報告文学が増えてきました。それぞれの立場も、山へ入ったタイミングも理由もバラバラ。そこに非常に魅かれます。
以前ボクも『連環画研究』誌(第一号、2012年)で、胡振林氏について少しだけ触れたことがありますが、もっといろいろな人物にスポットを当てた〈野人〉探検家列伝的なモノを、時間があれば個人的にまとめてみたいですね……。
論文は無理なので、やはりノンフィクションかな。
いつになるやら……(ニーズもないし)。